シンヤビオジマに学ぶ食物栄養学 < ニューヨークでの想い出に残る語らいと約束

・ニューヨークでの想い出に残る語らいと約束

 初めての出逢いから約1年後、オランダのグローニンゲン大学の訪学とワシントンDCでの学会出席のための出張がありました。その際、新谷先生のニューヨークのクリニックをお訪ねできればと思いアポイントを取りましたところ、事務長の都甲様より「ドクター新谷は前田先生の来院を心よりお待ちしております」との有難いFAXを頂きました。ニューヨークに着き、クリニックに電話をしたところ「夕方6時に自宅においで下さい」とのことでした。頂いたアドレスを頼りに当時先生が住まわれていた五番街のセントラルパークに面した高層の高級マンションへお伺いしました。そして、腸相談義。食物繊維談義に花を咲かせた後、奥様共々、大変格式の高いメンバーズクラブでの食事に御招待して頂きました。ニューヨーク市長や知事等、ニューヨークの上流社会のクラブで東洋人のメンバーは新谷先生を含めてわずかに2人ということで大変緊張しつつも素晴らしい雰囲気の中で珠玉のディナーを頂きました。新鮮なシーフードの数々を今でも鮮明に思い出します。

 次の日、先生の診療が終わる頃を見計らって午後4時近くイーストリバー寄りの国連本部に程近い新谷クリニックに伺いました。そしてベーグルをかじりつつ昨夜の続きの語らいが始まりました。話が腸内菌叢の良否と腸相の関係になった時、恐る々私が感じていたことを先生に伝えました。それは「胃腸は語る」の内容で腸内細菌の部分に関することでした。私は「先生の著書の記述部分で腸相と臨床については大変ユニークでだれも知らない高レベルの内容でワクワクしながら読ませて頂きましたが、残念ながら腸内細菌の部分について通り一遍でありきたりの内容で落差を感じました」と申し上げ、気分を壊されると思いきや先生から「そうなんですよ。その部分が最も興味があるんだが未だ充分に研究ができていないんですよ」と潔い答えが返って来ました。私はその時やはりこの先生は一流だと改めて尊敬の念を深くしました。そこで私は今回の出張の一つであるグローニンゲン大学の訪学の目的を新谷先生に伝えました。

 私の研究室は当時、腸内細菌の分類の世界的権威者である光岡知足先生に師事し、腸内細菌の分析を行っておりました。光岡先生の腸内細菌分析に対する基本的な手法は、ベーシックなデータ作りにおいては培養法がベストであり、目的に応じて分析効率の良い遺伝子を応用するPCR法[1]やFISH法[2]を用いるということでありました。私は培養法の技術を修得する一方、実用的分析技術の必要性を感じていたことから、光岡先生にFISH法の権威を紹介して頂きました。それがオランダのグローニンゲン大学のヴェーリング博士で、新谷先生にお逢いする数日前にFISH法による腸内細菌の分析手法の詳細を、先生の実験室で教わり資料を頂いたばかりで、頭の中は腸内細菌の分析のことで一杯になっていました。そして、新谷先生が最も興味を抱かれている腸相と腸内細菌叢の関係についての研究のお手伝いができることを伝え、新谷先生の次の日本帰国の際に光岡先生へお引き合わせすることを約束しました。ポリペクトミーの権威者には腸内細菌の権威者との交流が必要であると考えたからです。その日から新谷先生との親交がさらに深まった訳です。あの日の非礼を考えると今でも背筋が冷たくなる思いがします。

〔1〕《polymerase chain reaction》 微量のDNAを、その複製に関与する酵素ポリメラーゼを用いて、大量に増やす方法。
〔2〕《Fluonecsence In Situ Hybridization》 細胞に蛍光色素を結合させ紫外線で光らせ、顕微鏡で観察し、カメラで撮影する方法。

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